コーヒー

【焙煎士が解説】焙煎でコーヒーの味はどこまで変わるのか?

コーヒー

コーヒーの味は、焙煎で決まる。

極端に言えば、同じ豆でも
焙煎が違えば“別の飲み物”になります。

フルーティーで透明感のある一杯。
チョコレートのように甘く重厚な一杯。

その違いを生み出しているのが「焙煎」です。

私は日々焙煎をしていますが、
焙煎は技術であり、同時に感覚でもある。

ほんの数十秒の判断が、
その豆のポテンシャルを引き上げもすれば、潰してしまうこともある。

この記事では焙煎士の視点から、
焙煎によって味がどう変化するのかを、できるだけ分かりやすく解説します。

読み終える頃には、
コーヒーの味わいを「なんとなく」ではなく、
理解して選べるようになるはずです。

① 焙煎とは「化学反応」である

焙煎とは単に豆を焼く工程ではありません。
豆の内部ではメイラード反応やカラメル化が起こり、香りや甘みが形成されていきます。

✔ メイラード反応

→ 糖 × アミノ酸
→ 甘い香り・コクが生まれる

✔ カラメル化

→ 糖が熱で分解
→ 香ばしさ・苦味

焙煎中、豆の中では何が起きているのか

焙煎とは、単にコーヒー豆を加熱する工程ではありません。
豆の内部では熱によって複雑な化学反応が連続的に起こり、あの豊かな香りや甘みが生まれていきます。

代表的なのが 「メイラード反応」「カラメル化」 です。

まずメイラード反応は、豆に含まれる糖とアミノ酸が熱によって結びつくことで起こります。
この反応によって、パンが焼けたときのような香ばしさや、ナッツ、チョコレートを思わせる深い香りの土台が作られます。

コーヒーらしい「落ち着く香り」の正体は、まさにここにあります。

焙煎が進むにつれて起こるのがカラメル化です。
これは糖がさらに熱分解されることで生まれる反応で、苦味の中に感じるほのかな甘さや、コクのある味わいを形成します。

よく「深煎りは苦いだけ」と思われがちですが、実際にはこのカラメル化によって甘苦さのバランスが生まれているのです。

つまり焙煎とは、

✔ メイラード反応で「香りの骨格」を作り
✔ カラメル化で「味の厚み」を加えていく作業

とも言えます。

ただし、この反応は一度始まると止まりません。
火を入れすぎれば、せっかくの甘みは失われ、焦げのニュアンスが前に出てしまう。

だからこそ焙煎士は、香りの変化や豆の色、はぜる音に神経を研ぎ澄ませながら、**「どこで止めるか」**を見極めています。

ほんの数十秒の判断が、その一杯の印象を大きく左右するのです。

コーヒーの味は偶然ではありません。
目に見えない豆の内部で起きている反応を理解し、引き出した結果なのです。

② 焙煎のたった30秒が味を変える

焙煎は“どこまで火を入れるか”ではなく、
どこで止めるかの競技だと思っています。

コーヒー豆は熱を加えれば加えるほど、味がどんどん変化していきます。
酸味が際立つポイント、甘みが最も引き出されるポイント、そして苦味が強くなっていくポイント。

そのすべてが、焙煎という短い時間の中に存在しています。

ただ長く焼けば良いわけではありません。
むしろ火を入れすぎると、本来その豆が持っている個性まで消えてしまうことがあります。

例えば――
もう少しだけ甘みを伸ばしたい。
あと少しだけコクを出したい。

そう思って数十秒長く焙煎した結果、繊細な香りが飛んでしまうこともある。

逆に、止めるのが早すぎれば味は未完成のまま。
豆が本来持つポテンシャルを引き出しきれません。

だから焙煎士が向き合っているのは、
「どれだけ焼くか」ではなく、**“最も輝く瞬間を逃さないこと”**です。

豆の色の変化。
立ち上る香り。
はぜる音。

五感を使いながら、「今だ」と思える一点を見極める。

焙煎とは、豆を変化させる作業であると同時に、
変化し続ける豆をどこで完成と判断するかの仕事なのだと感じています。

③ 浅煎り=酸っぱいは間違い

良質な浅煎りは「酸っぱい」のではなく、
柑橘のような爽やかさや果実感があります。

ここで言う酸味は、刺激的な酸っぱさではありません。
レモンをかじった時のような鋭い酸味とはまったく別物です。

イメージとして近いのは、オレンジやマスカット、熟したベリーのようなみずみずしさ。
口に含んだ瞬間にふわっと広がり、後味は驚くほど軽やかです。

ではなぜ、「酸っぱい」と感じるコーヒーが存在するのでしょうか。

多くの場合、それは浅煎りそのものが原因ではなく、焙煎の進行不足抽出のバランスによるものです。

焙煎が適切でないと、甘みが十分に引き出されないまま酸だけが前に出てしまいます。
本来、コーヒーの酸味は甘みと重なり合うことで、立体的で心地よい味わいになります。

つまり理想の浅煎りとは、
酸味だけが目立つコーヒーではなく、

「酸味・甘み・香り」が一体となった透明感のある一杯。

このバランスが整ったとき、コーヒーは「酸っぱい飲み物」から
「果実のような風味を楽しむ飲み物」へと変わります。

実際に、スペシャルティコーヒーの世界では、この明るい酸を“欠点”ではなく、
むしろその豆の個性として高く評価します。

産地の気候や標高、土壌によって育まれた風味が、浅煎りによって最も素直に表現されるからです。

深煎りが「焙煎の味」を楽しむコーヒーだとすれば、
浅煎りは**「素材の味」を楽しむコーヒー**とも言えるでしょう。

もし浅煎りに苦手意識があるなら、
それは“酸味が強いコーヒー”を飲んだのではなく、
バランスが整っていない一杯に出会ってしまっただけかもしれません。

一度、甘みを伴った上質な浅煎りを体験すると、
コーヒーの世界が一気に広がります。

④ 焙煎士が一番怖い瞬間

焙煎には、何度経験しても緊張する瞬間があります。
それは——豆を釜から出す「排出の判断」をするときです。

焙煎中の豆は、秒単位で表情を変えていきます。
香りは刻々と移ろい、色は深まり、内部では化学反応が進み続けている。

その変化は一方向で、後戻りはできません。

もう少し甘みを引き出せるかもしれない。
あと数秒で、香りがさらに開くかもしれない。

しかし同時に、こうも考えます。

ここを越えたら、繊細な風味が消えてしまうかもしれない——と。

この数秒の迷いが、味を大きく左右します。

実は焙煎で怖いのは、「大きな失敗」ではありません。
本当に怖いのは、ほんのわずかなズレです。

例えば10秒。
たったそれだけで、

・狙っていた透明感が消える
・甘みが重たくなる
・苦味が前に出る

そんなことが起こります。

逆に早すぎれば、味はどこか未完成のまま。
ポテンシャルを引き出しきれないコーヒーになってしまう。

だから排出の瞬間は、いつも静かな緊張があります。

豆のはぜる音に耳を澄ませ、
立ち上る香りを感じ取り、
頭の中で味の着地点を思い描く。

そして最後は、経験を信じて決断するしかありません。

焙煎は機械が行っているように見えるかもしれませんが、
最終的に味を決めているのは「人の判断」です。

私はこの瞬間を迎えるたびに思います。

焙煎とは、豆を焼く仕事ではなく——
一粒の可能性をどこで完成させるかを決める仕事なのだと。

だからこそ、狙い通りに仕上がったときの安堵は大きい。
そしてカップにしたとき、思い描いていた味が立ち上った瞬間、ようやく肩の力が抜けるのです。

⑤ 焙煎は「正解がない」

焙煎に唯一の正解はありません。
だからこそ、焙煎士の数だけ味がある。

コーヒーの焙煎には、明確な“正解”が存在しません。
温度や時間の目安はあっても、「この焼き方だけが正しい」と言い切ることはできないのです。

なぜなら、一粒のコーヒー豆の中には、想像以上に多くの可能性が眠っているから。

果実のような明るい酸味を引き出すのか。
チョコレートのような甘みを際立たせるのか。
それとも、重厚でビターな余韻を持たせるのか。

どんな味を完成形とするかは、焙煎士の感性に委ねられています。

同じ産地、同じロットの豆であっても、
焙煎士が違えばまったく別の表情を見せる。

それはまるで——
同じ楽譜を渡されても、演奏者によって音楽が変わるのに似ています。

テンポの取り方。
強弱の付け方。
どこに感情を込めるのか。

焙煎もまた、技術だけでは完成しません。
最後に味を決めるのは、その人がどんな一杯を「美味しい」と信じているかです。

だから私は、焙煎とは作業ではなく
“表現”に近い仕事だと感じています。

火を入れるというシンプルな工程の中で、
豆が持つ魅力をどこまで引き出せるかを考え続ける。

時には狙い通りに仕上がらず、悔しさが残ることもある。
それでも次の焙煎では、もっと良い一杯に近づけるのではないかと火を入れる。

その積み重ねの先に、ようやく「自分の味」が見えてきます。

コーヒーの面白さは、ここにあります。

もし焙煎に絶対の正解があったなら、
世界中どこで飲んでも同じ味になってしまうでしょう。

でも実際は違う。

店ごとに香りがあり、
焙煎士ごとに個性があり、
一杯ごとに物語がある。

だからコーヒーは飽きないし、
だからこそ、自分の好きな味を探す楽しさがあるのです。

私はこれからも、「正解」を探すというより——
飲んだ人の記憶に残る一杯を目指して焙煎を続けていきたい。

それが、焙煎士という仕事のロマンだと思っています。

コーヒーの味は、偶然ではありません。
一粒の豆と向き合い、熱をどう入れるかを考え続けた結果です。

もしよければ一度、
焙煎によって生まれる味の違いを体験してみてください。

きっと、コーヒーがもっと楽しくなるはずです。

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